津和野は、文豪の森鴎外や哲学者の西周(にし あまね)の出身地であり、山陰の小京都とも呼ばれる有名な観光地です。
JR新山口駅から山口線に乗って津和野に向かい、津和野駅近くになると左側の山の上に石垣が見えてくるのですが、それに気づく観光客は少ないでしょう。
津和野城は「雲海の城」とも呼ばれ、兵庫県の竹田城に劣らない雲海に浮かぶ姿を見せてくれる山上の要塞です。
「日本100名城」(第66番)に選定されており、別称は三本松城、蕗(ふき・つわぶき)城、槖吾(たくご)城。
津和野城へ、私は1999年7月11日に登城しました。
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津和野城は、津和野の城下町を東に臨む標高367mの霊亀山(れいきさん)山頂にあります。
山城部と麓の居館である藩庁城郭部、最後の城主である亀井家のみごとな石垣の居館などから構成されています。
城山を取り巻くように流れている津和野川が天然の内濠ですね。
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鎌倉時代末期の永仁3年(1295)に吉見頼行(よしみ よりゆき)が、元寇に備えて城山の山頂に築いた城が津和野城のはじまりだと言われています。
難攻不落の津和野城を、吉見氏は約300年の間守っていました。
その頃は三本松城(もしくは一本松城)と呼ばれていたようです。
関ヶ原の戦いのあと、吉見氏が毛利氏に従い長州に移住。
300年もの間代々守ってきた土地から離れるのはつらかったでしょうね。
翌年には坂崎直盛(さかざき なおもり)が3万石で入ります。
直盛は城の大改修をおこないました。
山上に石垣を築き、天守などの建物群を備えた近世城郭として津和野城を生まれ変わらせたのです。
直盛は、徳川家康の孫である千姫(豊臣秀頼の妻)を大坂夏の陣において大坂城から救い出すという戦功をあげますが、そのあとその千姫の奪還を企てたとして改易。
直後の直盛の死は謎に包まれています。
坂崎氏が断絶した翌年、尼子氏の旧臣だった亀井政矩(まさのり)が4万石で因幡鹿野城より入封します。
寛永5年(1628)に亀井茲政が山麓に藩邸を築き、政務機関を移すとともに外濠を造り城下町を整備。
貞享3年(1686)に天守は落雷で焼失しますが、その後は再築されませんでした。
山城の櫓や多聞などが老巧化しても再築は簡素なものに留めて、麓の居館に城郭と藩庁の中心が移っていきました。
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城下との高低差200mという急峻な山頂部の最高所に、本丸(三十間台)を築きました。
本丸の周囲は、
・北側に太鼓曲輪
・西側に天守台と二の丸
・南には小さな人質曲輪
・南から西にかけて三の丸
を建造。
三の丸は翼のように突き出した形です。
全体として三角形のような縄張りになっていました。
大規模な城郭の石垣は坂崎氏時代の遺構で、質・量ともに豪壮。
この石垣は「根来坊」「阿林坊」「南胡坊」と呼ばれる三人の石工が紀州から来て、その技術を駆使し築いたと言われています。
櫓が14基で門は6カ所、200mほど離れた北側の尾根には出丸(織部丸)を設けたうえに二重櫓を築き、守りを固めていました。
山陰の山城のなかで、津和野城は最大規模の城郭でした。
山上に残っている石垣は近世城郭であることを示していますが、戦国期山城の構造も色濃く残っています。
しかし、城が完成すると秘密を守るために、直盛は三人の石工や工事関係者をことごとく殺害してしまったと伝わっています。
ひどいことをするものですね。最低ー。
すぐ下が人質曲輪、続いて三の丸、眼下に津和野城下が見えます。
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城の東側山麓にあった旧藩邸(御殿)は、現在は津和野高校敷地です。
物見櫓や馬場先櫓、嘉楽園という庭園の一部が現存し、さらに藩校養老館も残っていますよ。
津和野城は、近世城郭としては例の少ない山城です。
山上の各曲輪の礎石や石垣の遺構がほぼ完全な形で残っており、とても貴重な城址なのですね。
藩邸表門は浜田城址の本丸入口に移築されています。
城下町には、江戸時代の町割りがほとんどそのまま残っています。
海鼠壁の屋敷の前に流れる掘割には鯉が泳ぎ、初夏には菖蒲が咲く景観は津和野ならではと言えます。
森鴎外の旧宅などが当時のまま残っていて、観光の名所となっています。
写真は山の中腹にある朱塗りの社殿が圧倒的な存在感を主張している「太鼓谷稲成神社」です。
江戸時代に京都伏見稲荷から勧請し、太鼓櫓の建つ城内の一角である太鼓谷の峰に建立されました。
五穀豊穣、商売繁盛の神様として祀られ、多くの参拝客が訪れています。
日本五大稲荷のひとつで、263段の石段に約1000本の朱色の鳥居が並ぶ「千本鳥居」は壮観です。
津和野市が作った動画を発見しました!コンピューターでかつての城を再現してくれるなど、とても面白くわかりやすいですよ! 必見!!
*津和野城詳細
・住所:島根県鹿足郡津和野町後田
・アクセス:JR山口線津和野駅から車5分、リフト5分、本丸まで徒歩20分
・営業時間:24時間 ただし城址までのリフトは9:00~16:30
・休業日:12月1日~2月末は土日祝日のみ運行(ただし1月1日~1月5日は運行)
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【参考文献】
平井 聖監『城 6 中国 甍きらめく西国の城塞』(毎日新聞社 平成8年11月25日発行)、日本城郭協会監修『日本100名城 公式ガイドブック』(学習研究社 2007年7月3日第1刷発行)、南條範夫監修『日本の城 名城探訪ガイド』(日本通信教育連盟)、『城と城下町 西の旅』(日本通信教育連盟)、『城 其ノ参』及び『同 解説編』(日本通信教育連盟)、中井均監修『超雑学 読んだら話したくなる日本の城』(日本実業出版社 2010年6月20日初版発行)、西ヶ谷恭弘編『国別 城郭・陣屋・要害・台場事典』(東京堂出版 2002年7月15日初版発行)他
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