墨俣城は、長良川に並行して流れる犀川(さいかわ)が二つに分かれる三角形の上に築城されています。
平城ですね。
織田信長による美濃の斎藤龍興(たつおき)攻めのために、木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)が数日で築き上げた「一夜城」として有名な陣城です。
藤吉郎は墨俣城の築城をきっかけに出世していきました。
そのため、犀川に架かる橋は「太閤出世橋」と名付けられていますね。
別称は墨俣一夜城です。
墨俣城へは1999年6月11日に登城しました。
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斎藤義龍(よしたつ)は、父である斎藤道三を弘治2年(1556)に打ち取って美濃を手中にしました。
そのため斎藤道三の娘婿であった織田信長は、斎藤氏討伐の戦いを始めます。
義龍の子の龍興になっても、信長は斎藤氏との戦いに決着がつかないままでした。
信長はその打開策として、尾張から長良川を渡った地点、敵地の墨俣に築城を試みます。
墨俣は、木曽川、長良川、鏡川、犀川などが合流する「洲の俣」のような場所、
美濃と尾張の国境に位置し、長良川の渡河点として昔から軍事、交通上の要衝でした。
ここからは秀吉の「一夜城物語」を紹介しましょう。
初めに60日での築城を命じられた重臣の佐久間信盛や、2番手の柴田勝家などはいずれも築城に失敗しました。
築城を引き受ける武将がいないなかで、当時は軽輩だった木下藤吉郎が自ら名乗りを上げます。
永禄9年(1566)9月12日、藤吉郎は野武士だった蜂須賀小六や前野将衛門ら約2,000人の手勢で築城にかかります。
斎藤氏との戦いが続くなか、まずひそかに城地の造成をしておき、上流にあった織田方の場所で製材し、組み立てるだけにした城の用材を筏に組んで運びます。
そして墨俣の城地で夜を徹して組み上げ、わずか4日目の15日には完成、信長が入城したのです。
ここまでが、有名な一夜城の物語ですね。
当時の墨俣城は、たぶん簡素な砦レベルの陣城でもちろん天守などはなかったでしょう。
しかし、信長の名だたる武将がなしえなかったことを成功させた藤吉郎の才覚は、優れたものだったと言えます。
では、本当のところはどうだったのでしょうか。
実際には、日頃秀吉の献策を聞いていた信長から「短期間に少数の兵で築城をやれ」と密命を受けていたとされています。
秀吉は永禄9年の1月から取り掛かり、山から檜と松を切り出し、7月と8月にかけて松倉で製材していたそうですよ。
昭和52年(1977)に、旧家に伝わる前野家古文書の中から、前野氏の子孫に伝えられた『永禄墨俣記』が発見されました。
それによると、斎藤軍と戦いながら、昼は馬柵、夜は城造りをして、二重櫓五基、平櫓三基が建てられ、土塁や高塀がめぐらされていた陣城だったようです。
いやあ、一夜ではさすがに無理としても、短期間で築城したことは真実なのですよね。
搦手門から稲葉山城に一番乗りをあげた藤吉郎の活躍などもあり、翌年の8月に、信長は龍興の稲葉山城の攻め落としに成功。
ようやく、美濃一国を手に入れました。
この功績で、藤吉郎は足軽頭から、墨俣城を預かる城将に出世します。
秀吉は、この後戦術として「一夜城」を出現させて戦いを有利にする方法をとることになりますが、墨俣城はその元祖であるわけですね。
小田原の北条氏攻めで、小田原城の向かいの山の上に、一夜で築いたといわれる石垣山城(太閤一夜城)が有名です。
墨俣城は、その後戦略的価値がなくなり廃城、天正14年(1586)の大洪水であえなく流失してしまったといわれています。
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一夜城は、大垣市の公式ページでは「墨俣一夜城」と表記されています。
現在は大垣城天守を模して造られた、大垣市墨俣歴史資料館です。
平成3年(1991)に、ふるさと創生事業の一環として墨俣一夜城址公園に建造されました。
一重目の屋根に比翼千鳥破風、二重目に大きな千鳥破風を置き、三重目までは格子窓ですが、四重目の窓は展望のためでしょう大きな方形の窓となっています。
ここはひと工夫して欲しかったですね。
せめて左右は華頭窓にして欲しかったです。
この窓のために、天守の風格が失われていると思います。
最上階の屋根には純金の鯱を載せていますよ。
河川改修工事などで城地が半分ほどになってはいますが、現在は墨俣一夜城址公園となり、墨俣城模擬天守や秀吉像や秀吉の馬印の瓢箪型のオブジェが点在しています。
城の遺構としてはわずかに石垣が残っているだけです。
歴史資料館には、藤吉郎の一夜城物語が展示されていますので、ぜひ楽しんでください。
最上階の展望室からは墨俣町が一望できますよ。
*墨俣城詳細
・アクセス:JR大垣駅南口2番のりばから発車の名阪近鉄バス岐阜聖徳学園大学行きに乗車、「墨俣」で下車、徒歩12分
・営業時間:9:00~17:00分まで(入館受付は16:30分まで)
・休業日:月曜日(その日が祝日にあたるときはその翌日)/ 祝日の翌日(その日が日曜日にあたるときはその翌々日とし、その日が月曜日にあたるときはその翌日、その日が土曜日にあたるときはその翌週の火曜日) / 年末年始(12月29日から1月3日)
【参考文献】
平井 聖監修『城 4 東海 天下人への夢馳せる群雄の城』(毎日新聞社 平成8年12月25日発行)、南條範夫監修『日本の城 名城探訪ガイド』(日本通信教育連盟)、『城と城下町 東の旅』(日本通信教育連盟)、『城 其ノ一』及び『城 解説編』(日本通信教育連盟)、墨俣一夜城歴史資料館館長平川仁市「日本の城めぐり 墨俣城」他
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