*知っておきたい城郭用語(その9)
ここで紹介するのは、お城を理解する助けとなる用語です。
パンフレットや本を読んだとき、つまりこれは何? と悩むことはありませんか?
お城を探訪する時や関連する本を読む時に、役立つ基本語その9を順次紹介していきましょう。
今回は、お城の破風です。
*天守の破風

天守建築の形は、戦いのための建造物でありながら、美しさを追求した造形ともいえると思います。
そのなかでも、彦根城(当ブログ記事第19回目)天守は、小さいながらも様ざまな破風を置き、美しさを追求した最高の天守といえるでしょう。
*屋根の種類

破風の説明の前に、城郭建築物の屋根の形をみておきましょう。
屋根の種類は、上図のように4種類です。
天守や櫓、城門の屋根は、入母屋造りが正式で、切妻造りは略式です。
寄棟(よせむね)造り、方形(ほうぎょう・宝形)造りは、城郭建築物ではあまり使われることはありません。
宝形造りは、寺院ではよく見ますね。

*破風とは
天守と主要な櫓の最上重は、すべて入母屋(いりもや)造りです。
それに対して切妻(きりづま)造りは、小型の櫓(おもに平櫓)や高麗門、薬医門など一階建ての城門に使われています。
入母屋造りと切妻造りの屋根の端部には、妻壁(つまかべ)と呼ばれる垂直な三角形の壁面があり、そこを破風(はふ)といいます。
破風は、その形によって大きく四つに区別されます。
- 入母屋破風
- 千鳥(ちどり)破風
- 切妻破風
- 唐(から)破風
隣り合わせに同じ形の屋根をふたつ並べたものを比翼(ひよく)といいます。
たとえば千鳥破風が、同じ屋根上に二つ並んで置かれているものを比翼千鳥破風といいます。
入母屋破風と紛らわしいのが千鳥破風です
屋根の斜面にある三角形の千鳥破風は、破風の下の隅が屋根の隅棟(すみむね)から離れています。
言い換えれば、破風の屋根の斜面がそのまま軒先まで連続するのが入母屋破風で、本体の屋根面に載っているのが千鳥破風です。
下の写真で説明しましょう。

姫路城の模型の上から二つ目の屋根の中央にポツンと置かれているのが千鳥破風(写真の①)、その下の二つある破風の右側を見て下さい。
屋根が天守本体の屋根と繋がっていますよね。これが入母屋破風です(写真の②)。
さらに装飾的な破風が唐破風です。
唐破風は、社寺建築で高級な飾りとして発展し、天守や重要な櫓に応用して使われました。
軒先の一部を上方に持ち上げて唐破風にしたものは、特に軒唐破風といって区別されます。
この模型でいえば、最上の屋根が軒唐破風(写真の③)で、下は出窓の唐破風(写真の④)です。

*破風の種類
それでは、4種類の破風を、実例の天守を使って説明していきましょう。
入母屋破風
すべての天守の一番上の屋根と望楼型天守の下部構造となる入母屋造りの大屋根の端部に見られる、三角形の破風が入母屋破風です。

松江城(当ブログ記事第5回目)天守の二重の大屋根の、三重目まで突き抜けている大きな三角形(左側)が入母屋破風です。
それと二重の入母屋造りの上に載っている望楼部の最上の屋根も入母屋造りです。
二重目には、華頭窓のある入母屋造りの出窓が置かれています。
天守の入口となっている付櫓の屋根も、もちろん入母屋破風ですよ。
松江城天守は、入母屋破風だけで造られた無骨な感じの堂々たる国宝天守です。
比翼入母屋破風

姫路城(当ブログ記事第30回目)の天守は、先ほど説明したように二重目の屋根が三重目を突き抜けて四重目に届く、大きな入母屋破風(左側の大屋根)となっています。
南面には出窓の軒唐破風がありますね。
三重目が比翼入母屋破風、四重目が小さな千鳥破風、最上部が軒唐破風となっています。
千鳥破風

高知城(当ブログ記事第1回目)の重要文化財天守の二重目の屋根に大きな千鳥破風が置かれています。
二重目の大屋根の隅棟と離れているのが確認できますね。
比翼千鳥破風

宇和島城(当ブログ記事第17回目)の重要文化財天守の一重目の屋根に置かれているのが比翼千鳥破風です。
その上は千鳥破風、続いて軒唐破風。
天守の入口も御殿風に唐破風となっています。
防御的なものを何も持たない平和な時代の独立式天守の姿ですね。
軒唐破風

二重目の屋根を突き破る一重目の大きな入母屋破風、一番上の屋根が軒唐破風です。
向唐破風(据唐破風)
出窓のうえや屋根のうえに据えた破風を、向(むかい)唐破風、または据(すえ)唐破風といいます。

丸亀城(当ブログ記事第28回目)の重要文化財天守の一重目の屋根に据えられているのが向唐破風。
向唐破風がある天守は珍しいものです。

関宿城(当ブログ記事第129回目)の白漆喰総塗籠天守の一重目の屋根には、唐破風の出窓(左)と切妻破風の出窓(木の陰で見えません)があり、二重目には軒唐破風がある美しい姿をみせています。
切妻破風
屋根を棟から両側にふき下ろし、その両端を棟と直角に切った切妻造りの端部の破風を切妻破風といいます。本を開いて伏せたような形です。

弘前城(当ブログ記事第6回目)天守のこちら側に見えるのが切妻破風の出窓です。

そして、新発田城(当ブログ記事第45回目)の復元三階櫓の一重目正面が、切妻破風の出窓です。
最上の屋根がT字型になっていて、鯱が3つある珍しい櫓ですね。
一番上の屋根は入母屋破風になっています。
珍しい複合の破風

明石城(当ブログ記事第100回目)の現存する坤(ひつじさる)櫓東面の二重目の屋根には、軒唐破風の上に千鳥破風が置かれた、豪華なものとなっています。
二重に破風がある大変珍しい形で、神社ではたまに見かけますが、城では明石城のこの櫓でしか見たことがありません。
天守ではなく、隅櫓でこの意匠をするとは驚きです。
神社などでは拝殿の正面の姿で時々見かけますが。
*出窓の破風
すでに、いくつか出窓の破風の実例を示しましたが、天守の出窓は、その床面を石落、そして側面を横矢掛かりとするなど、攻撃側の拠点のひとつになっています。
関宿城天守や弘前城の三重櫓などのように、装飾意匠としても重要で、単調な外観を飾るためでもあります。

*復習問題

では、復習問題です。
徳川家が威信をかけて天下普請で築城した巨大な名古屋城(当ブログ記事第27回目)の復元天守。
上の写真に見える破風の名前と、下の写真の天守左面の破風を言ってみてください。

・答え
上の写真では、二重目の屋根に比翼千鳥破風(千鳥破風の下の隅が屋根の左右の隅棟と合わさっていないことに注意)、三重目に千鳥破風、その上は軒唐破風。
下の写真の左面では、二重目の屋根に比翼軒唐破風、その間に千鳥破風、三重目は比翼入母屋破風(三重目の破風の下の隅が屋根の左右の屋根と合体しています)、四重目は千鳥破風となっていて、大変破風の多い天守です。
一般に古式の望楼型天守には破風が多く用いられますが、層塔型は破風が少ない天守が多いですね。
下の、島原城(当ブログ記事第42回目)の復元天守は、もちろん最上層の屋根に入母屋破風があるのですが、途中の屋根には破風がまったくない珍しい天守の姿ですね。
かろうじて一重目に石落としのある格子出窓がひとつだけ付けられています。

*参考:天守の種類
- 現存天守:築城時の天守。全国にわずか12城。松本城、犬山城、彦根城、姫路城、松江城が国宝天守。弘前城、丸岡城、備中松山城、高知城、宇和島城、伊予松山城、丸亀城が重要文化財天守。
- 復元天守:外観、規模ともに旧状のとおり設計され、再築されているもの。コンクリート造りでも木造でも、実在した外観の旧形のとおり再築された天守をいう。
- 復興天守;再築された建物が絵図、古絵図、資料等で確認できるが、旧状の正確な数値が不明な建物を、想像で再築した天守。
- 模擬天守:資料・古図等に見られない建物を観光などの目的として造った天守。実在した建物の旧状を無視し、新たな意匠で建てられた天守も含む。
【参考文献】
財団法人日本城郭協会監修『日本100名城公式ガイドブック』(学習研究社 2007年7月3日第1刷発行)、公益財団法人日本城郭協会監修『続日本100名城公式ガイドブック』(学研プラス 2018年5月7日第6刷発行)、三浦正幸監修『【決定版】図説・「城造り」のすべて』(学習研究社 2006年12月1日 第1刷発行)、三浦正幸監修『城を知る事典』(日本通信教育連盟)他